蛍・納屋を焼く・その他の短編

ノルウェイの森(下)

4 「私たちがまともな点は」とレイコさんは言った。「自分たちがまともじゃないってわかっていることよね」 8「私は自分自身に対してよりは他人に対する方がずっと我慢づよいし、自分自身に対するよりは他人に対するほうが物事の良い面を引きだしやすいの。…

ノルウェイの森(上)

5 僕は三十七歳 5 十一月の冷ややかな雨が大地を暗く染め、雨合羽を着た整備工たちや、のっぺりとした空港ビルの上に立った旗や、BMWの広告板やそんな何もかもをフランドル派の陰うつな絵の背景のうように見せていた。やれやれ、またドイツか、と僕は思った…

美徳のよろめき 三島由紀夫

5 いきなり慎しみのない話題からはじめることはどうかと思われるが、倉越夫人はまだ二十八歳でありながら、まことに官能の天賦にめぐまれていた。 9 節子は二人の個体が、あるとき、唇の軽い接触だけで触れ合って、その後、何事もなくお互いに離れ離れに生き…